コラム

長時間労働と産業医面談
何時間から対象?企業の義務を産業医が解説

公開日: 2026年9月5日 | 執筆: 産業医 武藤信子

「残業が多い社員がいるけれど、産業医との面談は必要なのだろうか」——人事や経営者の方からよくいただく質問です。長時間労働は、脳・心臓の病気やメンタル不調を引き起こす大きな要因です。だからこそ、一定の残業を超えた社員には、医師による面接指導が法律で義務づけられています。

この記事では、「何時間から対象になるのか」「会社は何をすればいいのか」を、産業医の立場で分かりやすく整理します。

まず結論

この記事のポイント

「月80時間超」が基本の目安

労働安全衛生法では、休憩を除いて1週間あたり40時間を超えて働いた時間(=時間外・休日労働)が、1か月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者を、医師の面接指導の対象としています。

ここで大切なのが、実施義務の生じ方です。80時間を超えた人全員に一律で面談する義務があるわけではなく、対象となる本人が「面接指導を受けたい」と申し出たときに、会社に実施義務が生じます。とはいえ「申出がなければ何もしなくていい」という意味ではありません(後述します)。

時間外・休日労働会社の対応
月80時間超(疲労蓄積あり)本人へ超過を通知。申出があれば医師の面接指導を実施(義務)
月100時間超(研究開発業務など特定の場合)申出の有無にかかわらず面接指導が必要となる区分もある
上記に至らない場合会社の判断で面談を実施することが望ましい(努力義務)

※ 業種・雇用形態(研究開発業務、高度プロフェッショナル制度の対象者など)によって基準が異なります。自社の状況は産業医や社会保険労務士にご確認ください。

会社がやるべきこと

① 労働時間を正しく把握する

そもそも残業時間を正確に把握していなければ、対象者を見つけられません。会社には労働時間を客観的に把握する義務があります。まずはここが出発点です。

② 超えた人に「通知」する

月80時間を超えた労働者には、超えた旨を本人に知らせることが会社に求められています。この通知が、本人が面接指導を申し出るきっかけになります。

③ 申出があれば面接指導を実施する

本人からの申出を受けたら、おおむね1か月以内に医師による面接指導を実施します。

④ 医師の意見をもとに措置を検討する

面接指導のあと、会社は医師の意見を聴き、必要に応じて残業時間の削減、業務内容の見直し、休暇の取得などの措置を講じます。

「申出がないから大丈夫」は危険

実は、体調が悪い人ほど「迷惑をかけたくない」「評価が下がるのでは」と考えて、申出をためらいがちです。つまり、本当に面談が必要な人ほど、自分からは手を挙げにくいのです。

ですから、申出を待つだけでなく、会社側から声をかける姿勢が大切です。産業医面談は「問題社員の呼び出し」ではなく、倒れる前に体を守るための仕組みだということを、日頃から社内に伝えておきましょう。実際、申出がなくても、会社の判断で面談を勧めることは何ら問題ありません。

面談では何を話すの?

面接指導では、医師が睡眠・食事・疲労感・気分の落ち込みなどを丁寧に確認し、脳・心臓疾患やメンタル不調の兆候がないかを見ます。プライバシーは守られ、話した内容がそのまま人事評価に使われることはありません。医師が会社に伝えるのは「就業上どんな配慮が必要か」という意見であって、面談での個人的な話の中身ではありません。この点を本人に伝えておくと、安心して面談を受けてもらえます。

まとめ

長時間労働者への面接指導は、「月80時間超・疲労蓄積・本人の申出」が基本の目安です。会社は、①労働時間の把握 → ②超過者への通知 → ③申出があれば面接指導 → ④医師の意見で措置、という流れで対応します。ただし、申出を待つだけでは手遅れになりかねません。倒れてからでは遅いので、会社から積極的に面談を勧める文化をつくることをおすすめします。

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この記事の執筆者: 武藤 信子(産業医)
日本医師会認定産業医。外科学会専門医・乳癌学会専門医・がん治療認定医・抗加齢学会専門医。外科医としてがん治療に携わった経験をもとに、健診フォロー・がん検診の受診勧奨・治療と仕事の両立支援に力を入れている。プロフィールの詳細はこちら